(ま)でもわかるフットボール教室 9.12.2003
「アメフトはルールが難しくて何しているのかよう分からん!」という言葉をよく耳にします。確かに、一見するとごっつい大男どもがぐちゃぐちゃにぶつかって、何とも複雑怪奇に見えますが、実は皆さんが言うほどルールも難しくなく、意外と単純なスポーツなのです。大橋巨泉氏も「究極の見るスポーツ」と絶賛するアメフト、この神様に許された選手のみがプレーできるフットボールを、「ルールが分からん!」という第一印象だけで諦めてしまうのは、まるで子供の食べず嫌いのように何とももったいないお話です。
そこで、実は見れば見るほどに奥の深いスポーツなのですが、ここでは簡単にルールや観戦のポイントなどを小学生の頃からのアメフトファン(ひ)が、「全くのフットボール素人(ま)でも分かるように」をコンセプトにご紹介します。フットボールをよりよく理解するには、何はともあれ試合を最後まで見続けることです。大変だとは思いますが「食べず嫌い」をがんばって克服しましょう!
【まずは得点のシステム】
どちらのチームが勝ったかを決めるのは得点ですので、得点のシステムをまず頭に入れておきましょう。基本的には、
タッチダウン 7点(6点と Point after touchdown のキックで1点)
フィールドゴール 3点
したがって、フィールドゴール2回ではタッチダウン1回に追いつけないというところが微妙で試合を面白くしている要因の一つでもあります。また、Point after touchdown で通常のキックではなく、普通のプレーでタッチダウンするようなプレーが決まると2点(2ポイント・コンバージョン)、つまり合わせて8点入ることになります(後述)。この8点というのが、1プレーで得点できる最高の得点です。
得点となるプレーとしては、他に
セーフティ 2点
というのがありますが、非常に稀なので具体的には後から述べます。
【実際にプレーを見てみよう!】
まずは通常のプレーを見てみましょう。何やらごちゃごちゃしていますが、彼らの目的はただ一つ、「前に進む」ということだけです。反対に守備側の相手チームは「前に進まれるのを阻止する」ことのみに専念してプレーしています。
そして、4回の攻撃(それぞれのプレーは「ダウン」と呼ばれます)のうちで 10 ヤード前進できなかったら攻守交代、前進できたら、またさらに4回プレーすることが可能となります。野球は3アウトで交代ですが、フットボールの場合は4アウトのうちで 10 ヤード前進できたらまたノーアウトから攻撃することが可能なわけです。この 10 ヤード前進することを、ノーアウトに戻したという意味も含めて「ファースト・ダウンを取る」と表現します。つまり攻撃(オフェンス)側はファースト・ダウンを取るためにひたすら前進し、守備(ディフェンス)側はそれを阻止して攻守交代するためにひたすら守るわけです。中継で必ず見かける例えば「2nd down 4」などという表現は「現在2回目の攻撃(2nd down)で、ファースト・ダウンまで残り4ヤード」という意味です。最近はテレビ放送技術の発達で、フィールド上にこのファースト・ダウンのラインが合成で黄色く引かれて分かりやすくなりましたが、それが無い場合でもサイドラインに赤いマークで攻撃開始地点から 10 ヤードの位置が示されているので、まずはその位置まで進むかどうか、ということに注目して観戦しましょう。
【ダウンって、何!】
なるほど4回の攻撃(ダウン)で 10 ヤード進めばいいことは分かりました。でも1回のプレー(ダウン)はどうしたら終わるのでしょうか? ラグビーのようにパスを次々と出すわけでもなく、すぐに審判が笛を吹いてそのプレーは終わってしまう、というのが混乱を招いている大きな要因の一つでもあるようです。
その答えは、ボールを持って進むプレーヤーが文字通り「ダウン」したらそこでその攻撃は一旦ストップする、というのが基本的なルールです。正確には足の裏と手の平以外の部分が地面に触れることを「ダウン」と言います。さらに正確には、ディフェンス(守備側)の選手による接触が伴うダウンであることが条件です(down by touch)。ボールを持って進むプレーヤーが自分で勝手にこけたのなら、また起きあがって走り続けることが可能なわけです。また、すぐ下に述べるパス攻撃でパスが失敗した場合もその時点でそのプレーは終了となります。
つまり、全ての攻撃でダウンの時点で一旦プレーはストップするので、フットボールではラグビーのような「ボールを奪い合う」という行為が省略されています。実は全く無い、というわけではないのですが、その例外はまた後ほど。
【どうやって前に進む?】
ここではその 10 ヤードを進んで(前に進むことを「ゲイン」する、と言います)ファースト・ダウンを取るために実際にどのようなプレーをするか、ということを簡単に述べます。
非常に大まかに攻撃のプレーを分けると、「ラン攻撃」と「パス攻撃」の2つに分類できます。いずれにしても攻撃はオフェンスライン(後述)の中央に位置するセンター(C)(各ポジションについては後述)からクオーターバック(QB)へのエクスチェンジ<ボールを渡すこと>から始まりますが、
(1)「ラン攻撃」はQBから直接ボールを渡されたランニングバック(RB)が前に向かって走り、
(2)「パス攻撃」ではQBがワイドレシーバー(WR)(もしくはRBやタイトエンド(TE))へパスを投げる
ことによって前進します。この、前に向かってパスを投げられることがラグビーとの大きな違いの一つです。そしてこれまた大まかにそれぞれの攻撃の特徴を述べると、
(1)ラン攻撃は1回の攻撃でゲインできる距離はそれほど大きくはないものの数ヤードの確実なゲインが期待でき、
(2)パス攻撃ではより大きなゲインが期待できるものの成功する確率はランに比べると低い、
といった具合です。これらの「ラン攻撃」と「パス攻撃」を組み合わせて有機的に攻撃を組み立てることにより、どんどん前に進んでいくことが攻撃の醍醐味です。
少し上級編になりますが、ルールとして前にパスを投げられるのは一回のみ、しかもそのプレーでボールが元々あった攻撃開始地点(スクリーンイメージラインと呼びます)からパッサー(パスを投げる人、主にQB)が後ろにいる場合のみに限られます。後ろへのパスはラグビー同様何回しても自由ですが、アメフトでは複数回のパスをすることはほとんどありません(後述)。
また、パス成功の基準ですが、ダウンの前にボールを確保して大学では片足・プロでは両足をインフィールドに残しておくことが条件です。そのためプロのWRなどは明らかにフィールドの外でパスをキャッチしながらも両つま先はフィールドの中、というプロの技を魅せてくれます。
さらに前もって少しここで予備知識的に触れておくと、ダウンしてから次の攻撃の開始までの間(45秒と決められています)に、ラン攻撃では全てのプレーで、パス攻撃ではパスが成功した場合はゲームクロック(時計)がそのままカウントダウンを続けます。パス攻撃でパスが失敗したときには、その時点で時計が止まります(次の攻撃が開始した時点からカウントダウン開始)。したがって、ラン攻撃主体で攻撃を組み立てると時計の進みが早く、そのことまで計算に入れた攻撃のデザインを「ボールコントロールオフェンス」などと呼んだりします。例外的にいずれの攻撃でもサイドラインから外に出た時には時計が止まります。
【どうすれば得点?】
この 10 ヤードゲイン=ファーストダウン獲得を繰り返して攻撃をつなげていくことがオフェンス(攻撃)側の目的なのは分かりましたが、では何がゴールでどうすれば得点となるのでしょう?
自陣・敵陣 50 ヤードずつ、計 100 ヤードのフィールド(サッカーよりも少し小さいくらいの大きさ)を、敵陣のエンドゾーン(0 ヤード地点)までボールを進めることができたら「タッチダウン」で6点が加算されます。さらにその後、Point after touchdown と言って、エンドゾーン上にあるゲートにボールを蹴り込むキックが成功すると1点入り、計7点がタッチダウンで加算される通常の得点です。この1点のキックはプロでも大学でもほぼ100%の確率で決まります。例外的に、最初の項でも述べたようにキックの代わりに普通のプレーでタッチダウンするようなプレーが決まると、2点(2ポイント・コンバージョン)が加算され計8点となりますが、確率はぐっと下がります。8点差を追いつきたい時やリードを2点差ではなく3点差(フィールドゴールの点数)にしたい時などに見られるプレーです。(ちなみに数年前までプロではこの2ポイント・コンバージョンは認められていませんでした。今はOK)
【10 ヤードゲインできなかったら?】
では4回の攻撃のうちで10 ヤードゲインできずにファーストダウンを獲得できなかった場合はどうなるのかを考えてみましょう。大まかに分けて次の2つの選択肢があります。
(1)まだ自陣深くにいてエンドゾーンが遠い場合。その地点で単純に攻守交代してしまうと、自動的に相手チームの次の攻撃がエンドゾーンの近くから始まって有利になるので、これは絶対に避けなければいけません。したがってこういう場合は4回の攻撃<ダウン>のうち、最後の4回目の攻撃を使って「パント」を蹴ります。ラグビーでも自陣深くの不利な位置からはパントを蹴ってボールを相手陣まで戻すのによく似ています。パントを蹴ると得点は加算されずに攻守交代となりますが、相手の攻撃のスタート位置(フィールドポジション)を深く戻すという意味で非常に重要なプレーです。逆にパントをキャッチした相手チームの選手は、これまた少しでもいい位置から攻撃を開始できるように「リターン」します。このリターンを最小限に止めるのもパント・チームの重要な仕事です。ごくまれにではありますがこのパントやキックオフのリターンでそのままエンドゾーンまで走ってしまってタッチダウンになることがあり、これは観客も大いに盛り上がるビッグプレーです。
(2)敵陣のエンドゾーン近くまで攻め込んだが、惜しくもタッチダウンまたはファーストダウンの更新を逃した場合。その地点で攻守交代しても次の相手チームの攻撃開始地点としては問題ないものの、無得点での攻守交代はもったいないので、やはり4回目の攻撃を使って「フィールドゴール」というキックを蹴ります。Point after touchdown のキックと似ていますが、その攻撃が終了した地点からキックを蹴るのでゴールまでの距離がプレーによって異なります。このキックで給料をもらっているプロのキッカーの方が長い距離を正確に決められるのは当然ですが、大まかに言って大学でもプロでも 25 ヤード以内だとほぼ100%、25〜40ヤードでプロでは3分の2・大学では4分の1程度、40 ヤードを超えるとプロでは半々から時々・大学ではほぼ全滅、といった具合です<ちなみに(ひ)が今まで見た中で最長は自陣 51 ヤード地点から蹴った計 68 ヤードのキックですが、こんなことは滅多にありません>。そしてこのフィールドゴールが決まると、3点が加算されます。失敗するとその地点で攻守交代です(大学ではスクリーンイメージライン、プロでは約7ヤード後方のキックのためボールがセットされた位置)。フィールドゴールの失敗はキッカー1人の責任にされてしまいがちで、実際「Wide Right!!」の名実況で記憶の方もあるかと思いますが、スーパーボールで最後の逆転キックとなるはずだったフィールドゴールを外したバッファロー・ビルズのキッカーは、その後ノイローゼになり選手を続けられなくなったそうです。しかし実のところこのフィールドゴールは、ボールをスナップ(股の間から後ろに投げる)する選手(C)、そのボールを受け取ってセットするホルダー、ブロックしようと突っ込んでくる相手チームの選手を食い止めるラインメンなどの、誰1人が役割を怠ってもいけないチームの総合的な仕事なのです。たとえフィールドゴールでも、得点を取るというのは大変なことですね。また、最初の項でも述べましたが、3点のフィールドゴール2回では7点のタッチダウン1回の得点に追いつけないというところが微妙で試合を面白くしている要因の一つでもあります。
さて、この項を読んで賢明な読者の方はある一つのことにお気づきでしょう。
その通り、いずれの場合においても、4回目の攻撃<4th down>は通常の攻撃ではなくパントもしくはフィールドゴールに使うのがほとんどで、ファーストダウンを獲得するための攻撃は実質3回の攻撃<3rd downまで>ということになります。したがって 3rd down の攻撃ではそれを阻止されるもしくは阻止すると攻守交代となるわけで、オフェンスの選手はもちろん、ディフェンスの選手達や観客席までもが「ここはいっちょう」と必死になります。
4回目の攻撃<4th down>で通常のプレーをすることはもちろん可能ですが、リスクが大きいために「ギャンブル」と呼ばれ、負けているチームが終了間際に選択の余地なくギャンブルする場合<失敗=敗戦>や、ファーストダウンまでの残り距離が非常に短い場合<4th down inches などと表現されます>に限られます。距離が非常に短い場合、QBがボールを受け取ってそのまま前になだれ込む「クオーターバック・スニーク」というプレーがしばしば見られます。0.5 ヤードくらいまではこのQBスニークで確実にゲインできます。
【得点の後、など。スペシャルチームとは?】
晴れてタッチダウンまたはフィールドゴールで得点した場合、その得点したチームが「キックオフ」をすることにより試合を再開します。試合開始の最初のプレーもこのキックオフです。自陣35ヤード(大学)・30ヤード(プロ)の地点からキックをし、キャッチした相手チームの選手(リターナー)がパントの時と同様にリターンして、このリターナーがダウンした地点から攻撃開始です。パントでもキックオフでも、エンドゾーンまでボールが入ってしまった場合には「タッチバック」と言って自陣20ヤードが攻撃開始地点となります。つまりパントやキックオフを蹴った側のチーム(キッキングチーム)が、20ヤード地点よりも内側でリターナーを止められるかどうか、というのが一つの指標となります。逆にリターン・チームの方は20ヤード地点よりも敵陣側のより良いフィールド・ポジションまでボールを持っていこうと必死に走ります。通常のオフェンスのプレーで進む10ヤードも、リターンで進む10ヤードも、全く同じ10ヤードなのです。
このように、通常のプレー以外のパントやキックオフといったプレーも、両チームにとって非常に重要なポイントです。特にパントで敵陣 5 ヤード地点などに押し戻そうものならビッグプレーです。パンターはこの距離感や着地してバウンドした場合の跳ね具合まで気を遣って蹴っていると言います。また、実際そうなって自陣深くから攻撃しなくてはならない場合、自陣エンドゾーン内でディフェンスの選手によってダウンされてしまうと、それは「セーフティ」と言って2点を相手チームに奪われることになります。さらに、タッチダウンやフィールドゴールとは異なり、セーフティではその後の攻撃権も相手チームに与えることになるので最悪です。こういったリスクを避けるためにも、より良いフィールド・ポジションを得ることは非常に重要なことなのです。
以上のように、重要な鍵を握るキッキングチームやリターンチームですが、これらは総じて「スペシャルチーム」と呼ばれ、チーム力を測る一つの大きな基準となります。プロでは、主に若い選手が少ない出場機会の中で良いプレーを見せようと、見ていて痛々しくなるほどにがんばります。またリターナーはスピードのある選手が望ましいわけで、控えのWRの選手などが担当しているケースが最近はよく見られます。もちろんチームによって異なります。
【おつかれさま!(第1部終了)】
以上、簡単ではありましたが(簡単かぁ??)これであなたもフットボールの超基本的な知識は大丈夫です。分かりやすくするために主にオフェンス側からの視点で解説しましたが、実はフットボールの通はディフェンスに注目します。そんな通になるためにも、ちょっと休憩したら、また次のページに読み進めてくださいね〜。(つづく)(ひ)