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 カロライナ・バーベキュー こだわりのサザンフード



ノースカロライナには知る人ぞ知る名物があります。300年の歴史を持つそれは「バーベキュー」です。普通、日本人は「バーベキュー」と聞くと肉や野菜を串に刺して焼く様子を想像しますが、それは「バーベキューをする。」というように「動作」を表します。しかし、ここノースカロライナでは「バーベキュー」という言葉はひとつの「料理」を指します。(ちなみに串にさした肉や野菜はskewerと言います。)この「ノースカロライナ・バーベキュー」とは一体どんな料理か、我々がよく行くバーベキュー屋さんの様子を例に出してご紹介します。

市街を抜けて、一車線の道を車で20分ほど行くと左手に小さな一軒家が見えてきます。うっかり見落としそうな2階建ての小さなその家が、目指すバーベキュー屋さんです。周囲に他の家は見当たらずさびれた雰囲気が漂っているのに、店の前にはいつも10台ほどの車が止まっていて、ガラス窓越しにテイクアウト用のオーダーをした数人が思い思いに待っています。

店 ナプキン立て

テイクアウト窓口の横を通り抜け、建物の横手に回ると"Diner"(簡易食堂)と書いた小さな木の扉があります。ハエよけの網戸と木のドアを開けて中に入ると、そこにあるのは数十年前から変わらない世界。12個の木製テーブルには赤白のギンガムチェックのビニールのテーブルカバーがかけられ、小さな窓にはカーテン代わりにお揃いのつもりか同じ赤白のキッチンタオルがぶら下がっています。決して満員にはならないけれど必ず先客が数人いる室内を見回し、適当に席を見つけて座るとTシャツにジーパンのウエイトレスが注文を取りにやって来ます。注文するのはもちろん「バーベキュー・プレート」。胃の調子に合わせてスモールだったり、普通サイズだったり。飲み物は「アイスティー」。南部では何も言わなければシロップ入りの甘ぁーい紅茶が来るのが普通ですが、ここではシロップ入りの紅茶しかありません。

アイスティーをすすりながら待つこと10分。お待ちかねのバーベキュー・プレートが3分割された皿に盛られてやってきます。(お子様ランチのような皿を想像してください。)ここに、バーベキュー三種の神器(と我々が勝手に呼んでいる)が載っているのです。まず正面の一番大きな面積の部分にこんもり載っているのは、包丁で細かくほぐした豚肉。動物の餌かとみまちがうような見た目の悪さ、これが有名なノースカロライナのバーベキューです。そして上の半分には「コールスロー」。キャベツを細かく細かく刻んで和えたサラダです。そしてもう半分には俵型コロッケが4分の1くらいの大きさになった揚げ物。これが「ハッシュ・パピー」。そして、ウエイトレスがドンと置いてゆくチリソースのラベルが貼られた瓶。実はこれが、特製のバーベキューソースなのです。

紙ナプキンに包まれたフォークを取り出し、まずはバーベキューを一口。肉の味がじわりと口の中に広がります。軽く味はついていますが、ここはやはりソースがほしいところ。瓶をよく降り中身を混ぜ合わせます。このソースの主な材料は酢と胡椒と唐辛子。砂糖やトマトソースの類は伝統的に一切入りません。かなりすっぱくてピリリとしたこのソースをかけると、不思議なことに肉の味が引き立ってきます。肉は水分が多くしっとりしていたり水分が少なくてパラリとしたり、日によって食感に違いがあるのはご愛嬌。
暖かいうちにハッシュパピーもパクリ。コーンコロッケの味がするのも当然、コーンミール(トウモロコシ粉)をバターミルクで溶き、玉ねぎのみじん切りなどを混ぜて揚げたものなのです。そしてコールスロー。日本ではケンタッキーフライドチキンでみるそれが見た目は似ていますが、みじん切りのキャベツをリンゴ酢とマヨネーズと砂糖で和えてあり随分と甘さがあります。

バーベキュー

お腹も落ち着いて店内を見回すと、いくつかある豚の置物。各テーブルにある木製の紙ナプキン立てもよく見ると豚の顔が書いてあります。そう、カロライナバーベキューと言えば牛でも鶏でもなく「豚」なのです。

作り方は、豚肉をピットと呼ばれる場所でヒノキやオークのチップで燻し焼きするのが基本です。食べるときと同じ酢と胡椒と唐辛子のソースをからめつつじっくりと焼きます。そして、包丁でchop、みじん切りに近いほぐした状態にします。これは南部のバーベキュー料理に共通したスタイルです。残念なことに最近では、木のチップを使わずに電気を使って焼いたり、包丁でなく電動カッターでほぐしたりと、作り方も近代化しているそうです。

バーベキューの定番サイドメニューとしては、ハッシュパピーとコールスローの他にも「ブランズウィック・シチュー」なるものがあります。本来はリス(!)の肉で作るそうですが、現在はチキンを使い豆や野菜を加えてトマト味で煮たものです。有名人も数多く訪れるという店で一度トライしたことがありますが、残念ながら我々の口には合いませんでした。

ノースカロライナ州にはこのバーベキュー専門店が何件もあります。特においしいと評判の店が集中している地域はタバコ産業が栄えていた場所であり、これはタバコ産業が機械化される以前、重労働をねぎらってバーベキュー・パーティーをしたことに由来すると言われています。我らがトライアングルエリアにも「 Bullocks 」「 Allen and son 」の2大有名店がありますが、前者はいつも大行列、壁には来店した数々の有名人の写真が飾られています。後者のお客さんは地元民に加え肉体労働者系やカウボーイが多く、アジア人は我々以外見たことはありません。この「 Allen and Son 」、創始者が始めた店、息子が継いでいる店などオーナー違いで数店舗あります。2002年、そのうちの1件が火災で焼けて再開の目処が立たなかった時には「カロライナ食文化の偉大なる損失」とまで言われました。

とても残念なことにこのバーベキュー、癖の強い味やルックスは決して万人受けではないようです。バーベキュー好きの我々でもおいしいと思える店とそうでないものがありますし、日本人の中にはレストランに連れてゆくと食べながら無言になってしまう人も少なくありません。また、バーベキュー自体が近年のヘルシー嗜好にもそぐわないらしく、粗野でハイカロリーなイメージに顔をしかめる人もいます。その一方、「肉はこの店がおいしいけれど、ハッシュパピーはあの店がベスト。」などと一般評論家のバーベキュー熱は冷めることなく、毎年気候の良くなる頃には各地で「ホグ・デー Hog day 」というお祭りが開催され(ホグとは雄の食用豚のこと)たくさんの人が訪れます。豚の衣装コンテストや屋台もたくさん並びますが、目玉はもちろん野外で豪快に調理したバーベキュー。早速買い求め、サービスのコールスローと一緒に、地元のマクドナルドが寄付したバンズ(バーガー用のパン)にはさんで青空のもとで滴り落ちるソースも気にせずに食べると、気分もお腹も幸せになります。

ある日、いつものようにHWY15-501の「 Allen and son 」に行くと壁に見かけない金ぴかの額が飾ってありました。見ると金融ビジネス誌「Money」で紹介されたとか。見回すとそこには、金融ビジネスとは縁のなさそうな肉体労働者やカウボーイがガツガツと肉を食んでいるいつもと変わらない風景が広がっていました。(ま)



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