3行ジャマイカ Playmakers


ハードワークな美男美女

★プレイ・メーカーズ&従業員★

終日ホテルの施設内で過ごすのだから、飽きさせない工夫も必要なわけで、その中核を担うのが「プレイメーカーズ」と呼ばれる、エンターテイメント担当部署のメンバー達。10人ほどの若者のあつまりなのだが、そろいも揃って美男美女揃い(ジャマイカの、です。)。誰もがスポーツ万能、イベントの司会もこなし、加えて歌やダンスなど各自得意分野を持っている、いわばホテルの「顔」的存在。華やかな仕事ではあるのだろうが、いつもホテルのどこかで見かけるハードワーカーぶり。顧客の顔と名前をいち早く覚え、すれ違うたびに声を掛けるなど、地道な努力も見逃せない。
一方、その他の従業員もレストランのウエイター、ウエイトレスからプールでタオルをくれるおばちゃんまで、皆とてもフレンドリー。お喋り好きで、テーブルにワインをつぎに来たまま15分ほど喋りこんでいったウエイターもいたほど。但し、こちらも同様にハードワーク。夜にレストランで白手袋をしてサーブしていたウエイトレスが、朝はアロハを着てバフェのサービスをしている。

実は実は、空港からホテルまでの2時間ほどの道のりで見たジャマイカの風景は、やはり国としての貧しさを痛感させられるに十分なもので、昼間から道端にたむろしている人々は、ハードワークのイメージとはかけ離れたものだった。多分、ジャマイカの中でもこのようなホテルで働けるということは誇りなのだろう。従業員用通路には「教育は最大の投資」「サービスはマニュアルでなく心から」などという張り紙があちこちに見受けられた。ホテルの施設も良かったけど、やはり「企業は人なり」。彼らの存在が、今回の滞在をより快適なものにしてくれた。ここではそのうちの数人をご紹介。


セント・ニコラス

美男美女ぞろいのプレイメーカーの中で、一人だけ顔の大きいヤツがいた。彼の名はニコラス。サンタクロースと同じ名前ゆえ、時節柄セント・ニコラス(サンタクロース)と呼ばれていた。「キミ達はチャイニーズか?」と聞くので「違うよー。」と言うと「俺はハーフ・チャイニーズだ。」とのこと。言われてみれば、確かにアジア人顔なのだ。ジャマイカは70年代に香港からの移民が増え、新しい活気につながったとそうだから、きっとニコラスの父親もそんな移民の一人なのだろう。聞けば中華料理店を経営しているという。きっと成功した裕福な家の子供なんだろうね。それにしても結構なハードワークのプレイメーカー達。若い頃はいいとして、このまま一生この仕事を続けるのだろうか?と疑問に思っていたところ、アジア人のよしみか、3人だけになった時にニコラスがポツリと話した。「俺はサウス・フロリダ大学に進学するつもりだ。そこだったら、ジャマイカと同じで暖かいだろ。」「いや、さすがのフロリダも、ジャマイカよりは寒いと思うよ。」と(ひ)がフォローしていたが、実は2人で感心していた。憧れの仕事、きついけど華やかな仕事、お給料のいい仕事。これに満足せず、数年間頑張ってお金を貯めた後は、将来に向けてもっと堅実な道を切り開いていく若者の姿がそこにあった。ニコラスは、DJもダンスも上手いばかりでなく、アジア人の勤勉さが血に流れているのか、いつ見ても手を抜かず一生懸命場を盛り上げていた。おば様方のファンも多かった様子。学部を聞くのを忘れたけど、Good Luck! パーティー要員として重宝がられて、留年なんかしないようにね。


クレージー・クリス

プレイメーカーのクリスは、「クレイジー・クリス」とあだ名されるほど行儀の悪い言葉を吐きつつも、長身の体と可愛い顔を持つ人気者だ。
そんなクリスがビリヤードをしている(ひ)(ま)のところにやってきた。「僕はいつかアジアに行きたいと思っている。」「それなら香港がいいんじゃない。英語通じるしさ。」なんて話をしていると、突然声を潜めて「でも、俺はアメリカには行きたくないんだ。」「何でよ?」「だってさ、アメリカ人はクレージーだよ。今でも差別があるんだろ。俺達(黒人)はマイノリティーになるんだろ。」思わず笑ってしまった。このクリスが!容姿に恵まれ、誰もが憧れる仕事について、好き勝手に振舞っているように見えるクリスが、アメリカを怖がっているなんて。しかし思えばジャマイカは、その昔ヨーロッパからの奴隷貿易の中継地として栄えた土地であり、アフリカ大陸からの祖先をルーツに持つ黒人主流の社会なのだ。そこでは、アメリカの黒人差別は、大きな関心と恐怖を持って聞こえているに違いない。「場所にもよると思うけど…。」と、(ひ)(ま)は言葉を濁した。アメリカ人観光客で成り立つ観光業に頼って生活をしつつも、同国での同胞の不幸に怒りを感じている…クリスの一言は、この国の人のアンビバレントな感情に初めて触れた瞬間だった。(ま)


先輩ジーン

「結婚しててもクラッとするよね。」(byひ)の言葉どおり、魅力的なプレイメーカーズ。このホテルはカップルのみの宿泊なのでまあいいとして、これが普通のホテルだったらモテモテを超えてトラブル続出に違いない。チーターのようにしなやかな体、整った顔はもちろんのこと、それぞれに特技を持っている。自分で作曲した歌を披露するクレッグ(歌は上手いが、ギターは弾かない方が…。)、キーボードで作曲をするジョナサン(DJでは七色の声も披露)、ペアのフィギアスケートみたいにしなやかなダンスを披露するドゥウェイン&ケリーのコンビ、顔に笑顔を貼り付けたままのダンスがシャーリー(ちょっとロボットみたい)は、チャイニーズ系女性ながらマネージャーという出世頭、関連ホテルのマネージャー候補で修行中のフィオナ(小柄なジャマイカ女性が多い中で、スタイル抜群)、などなど。若い彼らが惹かれ合わないはずはない。ジョナサンとフィオナは結構いい雰囲気だったりして(勤務中にもアツアツ)。

しかしこの彼ら、いつ見てもホテルにいる。一体どんな勤務形態なんだ?(ひ)(ま)の朝食のテーブルに「一緒に食べる。」と来た小柄なジーンにインタビューすることに。「プレイメーカーになるのは大変でしょ。」「テストを受けるの。面接に歌にダンス。不合格者もいっぱいいるよ。」「ハードワークだよね。一日どれくらい働いているの?」「14時間くらい。」「休みは?」「週に1日だけ。」「いつもどこかで見るけど。」「このホテルの施設内の部屋に住んでいるの。」(ホテルの敷地には、従業員用の住宅も点在。)聞けば、プレイメーカーズは終日一緒なので、もう家族も同然の感覚だという。「どれくらい、ここで働いているの?」「8ヶ月」「あなたが一番短いの?」そこで、ジーンがとつぜんニヤリ。「ううん、2番目よ。今日から新人が来るの。」このジーン、正直言って歌とかダンスとか特別上手いというわけでもなく、また愛想がよい訳でもない。でも、いつもチョコマカ働いている(今思えば下働きが多かったのだ)。このジーンがついに先輩になるのだ!
翌日、別のプレイメーカーズと朝食を食べていると、ジーンが「私達もご一緒していいかしら?」とすまし顔てやってきた。そして「紹介するわね。新しいプレイメーカーのキムよ。」見れば希望に顔を輝かせたキムちゃん、ぽっちゃり系でいたって普通の女の子。他のプレイメーカーに比べると、どん臭いと言ってもよいだろう。「話には聞いていたよ。大変な仕事だけど頑張ってね。」と(ひ)(ま)。この彼女も、人に見られて鍛えられて、心身ともに引き締まってくるのだろうな。
その後、滞在中の数日間にも、だんだん顔に疲れが溜まってきていたキム。それを横目に、相変わらずの愛想のなさながら、ペースを乱さずチョコマカと仕事をこなすジーンの顔には、先輩としての風格が満ち満ちていた…ような気がした。


ケリー

ジャマイカ滞在最後の夜、(ま)はプレイメーカーの一人から「今晩、一緒に一杯飲もう。」と誘われた。うふっ、と言いたいところだが、その一人とはケリー(女性)。ケリーとは滞在中後半までほとんど言葉を交わすこともなかったのだが、最終的に一番仲良くなったプレイメーカーだ。 さて、生まれた環境がそうさせるのか、持って生まれたリズム感か、ジャマイカの人達は皆ダンスがすごく上手い。そのダンスとは、腰の動きがポイントの明るいセクシー系ダンス。早い人になると1秒間に5回お尻フリフリできるのだ。そんな中、ケリーのダンスだけは、フィギアスケートのようなダンス。ある晩のショーでは、麻薬中毒の若者の更正を描く創作ダンスを、表現力豊かに披露していた。そんな彼女にとって週に1日だけの休日の朝、朝食を食べていた(ひ)(ま)のテーブルにふらりとやってきて、「一緒に食べていい?」。その後、オフィスで、バーで、別の日の朝食のテーブルで、(ひ)と(ま)とケリーは、日本について、ジャマイカについて、仕事について、将来について、宗教について、戦争について、様々なことを話したような気がする。
彼女の印象を一言で言うと、真面目で仕事に対するプロ意識が高いということ。「日本人は働きすぎだよ。」という、日本人がよくする自己批判をはっきりと否定したのも彼女が初めてだった。「ジャマイカの人たちが、日本人ほど働いてくれたらどんなにいいか、と思うわ。この国の失業率をしっている?完全にアメリカに頼ってしか国が成り立たない。それはとても悲しいことだ。」「日本はうらやましい。完全に独立して、テクノロジーがあって。トーキョーに行った人は未来に行った、と思うでしょう。本当に。」最後の夜、バーでひとしきり飲んで11時になると、「今から、明日のショーのリハーサルなの。」とステージ裏へ戻っていった。仕事はきついけど、人を喜ばせることが出来るのでやりがいがある、と言っていた。
彼女も、将来のビジョンはしっかりしていた。言語療法士を目指して、来年の秋にはイギリスの大学に留学を希望しているという。その仕事だと、時給が18ドルになるそうだ。独立も考えるが、福利厚生を考慮すると企業勤めも悪くない。「でも、ダンスはやめないでしょ。」の問いには「ダンスは、おばあちゃんになって杖をついてでもするわ。」と杖をつく真似をして笑っていた彼女。日本の文化にも興味深々で、初日の出を拝む習慣を教えたらやけに気に入ったらしく、「私も初日の出を見て、あなた達を思い出すわ。」と言っていたっけ。2004年の元旦、ジャマイカのケリーも、初日の出を見ただろうか。(ま)




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