「オールインクルーシブ・ホテル」と一口に言っても、アルコールは有料だったり、レストランの収容人数が少なくて待ち時間が長かったり、色々あるらしい。今回のホテルは、アルコール飲料も料金込み、そして時期やタイミングがよかったのが、レストランで席を待ったのも一度だけだった。それにしても、10日間全く料理をしなかったのは10年ぶり以上といってもよいでしょう。毎日が食べ放題、飲み放題のバケーションの中で、印象に残ったものをいくつかご紹介。
何を隠そう、(ひ)は大のビール党。旅行前には断酒をすること一週間、胃腸の調子を整え、万全の体制で臨んだ飲み放題のバケーション。結果は知れると言うものです。一応「午後以降」という自主規制をしていたらしいが、ビーチでボケーッとしつつ一杯、ランチで軽く一杯、スポーツの後の一杯、夕食前の一杯、食事中の一杯、食後の一杯、寝る前の一杯、…とまぁ、いたるところにあるバー(プールの中にもある)で、「マスター、一杯ちょうだい。」となる。
さて、この場合の銘柄は、何をおいても「レッド・ストライプ」。65年以上の歴史を誇る、ジャマイカで最も有名な地元ビールだ。バスに乗って街を走ると、至るところに「レッドストライプ」の看板がある(日本の田舎にあるボンカレーの広告みたいな、鉄製の看板をイメージしてください)。味はあくまで軽く、暑いジャマイカの気候にマッチした、炭酸の効いた喉越しのサワヤカさ。沖縄で飲むオリオンビールに通じるものがある。バーで一言頼むと、それがドラフトで出てくるのだ。これが飲まずにいれようか!(ま)も付き合うときは「レッド・ストライプ・ライト」を頼んで、ふたりで乾杯。ちなみに、軽いのとすぐに汗になるので、あまり深酔いすることはない。と言いつつ、調子に乗って「どこにバケーションに行くか考えていて、たまたまこのビールを飲んだら美味しかったので、ジャマイカに行くことに決めたのさ。」というジョーク(でも実話)を10人にはした記憶があるなぁ。
さて、アメリカに戻ってもあの味が懐かしく、近所のスーパーで買うのだが「何でレッドストライプを飲むのに、お金を払っているんだろう。」という一抹の不満が残る。変な話だけど。
何を隠そう、(ま)はアルコールは何でもOK。(但し、一生飲めなくても、これまたOK。)最初こそ(ひ)に付き合ってビールを飲んでいたものの、ジャマイカ名産は「ラム」と聞けば、試さない訳にはいかない。ラムはジャマイカ名産のさとうきびから作るお酒で、甘くまろやかな香りが特徴。日本でも、ラムレーズンなどお菓子作りに欠かせない。最初にバーで「ラムにどんな種類があるか説明して」と頼んだところ、2種類が出てきた。一つは透明。これは「貧者のラム」と呼ばれ、香りはほとんど無い。嗜好品としてだけでなく、風邪薬としてなど生活に密着して使われているらしい。そしてもうひとつは、ウイスキーのような琥珀色。香りもふくよかで、うーん、美味しそう。
このラムの製造過程を簡単に説明すると、発酵、蒸留、熟成の3段階に分かれる。銅の鍋を使って85%アルコール、15%が水の香り高いラムを蒸留し、焦がした樫の樽で3−20年間熟成させるというもの。その間に、蒸発してなくなるのは「天使の分け前」という訳。しかしながら、そんな悠長な作り方をしているラムは現在では少なく、色も香りも人工的につけているとか。ちなみにアルコールは43%、生で飲むわけにはいかない。で、いろんなカクテルを作ってもらっては飲んでいた。どれも甘くて濃厚。
さて、乗馬ツアーに参加したとき、ガイドのスティーブ君がジャマイカの飲み物の話をしていた。「夏は"Icy cold Red Stripe"(キンキンに冷やしたレッド・ストライプ)が最高さ。」「そして冬は、ラムをコークで割ったラムコーク。これはウインタードリンクと呼ばれてて、体が暖まって最高さ。」とのこと。(常夏でも、住めば寒く感じる日もあるのだろう。)早速、ホテルのバーで作ってもらった。ラムをワンフィンガーに氷とコーク。コークが少し甘くなったような口当たりのよさで、これがクイクイいけるのだ(飲みすぎ注意)。これなら家でも作れそう、とラムを一瓶お土産に持って帰り、今も我が家でチビチビと楽しんでいる。
余談その1)ホテルの売店でラムを買っていると「タダで飲めるのに、何で買ってるんだ?」と不思議がられたが、帰国当日はクリスマス。空港の免税店は全て閉店だった。危機一髪。
余談その2)ラムコークと言いつつ、ホテルではペプシで割っていた。でもラムペプシとは言わない。だって、カッコ悪いもん。
雨が降ったり風が強かったりで、屋外で遊べない日が3日ほど続いた。そうなると、食事だけが楽しみになる。「よく降るね」などと話しながら、朝と同じレストランで、3時間後には昼食を食べている。ところが、屋内で遊ぶといっても、ビリヤードにピンポンでは、カロリー消費量はたかが知れている。やがて、お腹が空かなくなるのだ。「じゃあ、朝食かランチを抜けばいい。」とも思うのだが、そこは悲しい貧乏性、「せっかく料金に入っている食事を食べないのももったない。」と、ついつい食べてしまう。食べ放題も、食べなきゃという強迫観念とお腹の空き具合のバランスが悪いと「拷問」に等しくなる、と悟ったのは今回が初めての経験だった。今思えば、限りなく贅沢な話だけれど。
以前Mの家にディナーに招かれたとき、チキン料理に使っているスパイスの話になった。パッケージを見せながら、「ああ、でもこの言葉は人前で使わないほうがいいよ。」とカナダ人のご主人が指差したのは"JERK"(ジャーク)の文字。時は流れ、ジャマイカの空港からホテルまでの送迎バスの中、トイレ休憩で止まったレストランの名前を見て、アメリカ人男性が唖然としていた。そこには堂々と,「ジャーク・センターへようこそ!」の文字が。
ちなみに、ジャーク・チキンもしくはジャーク・ポークというのは、れっきとしたジャマイカの名物料理。ネギや玉ねぎ、唐辛子に塩・胡椒、特産のさとうきび酢などミックスした独自のスパイスに肉を漬け込み、炭火で焼くのが正式の調理法。17世紀のジャマイカにはすでにこの料理が存在し、いのしし肉を料理していたらしい。「道端の屋台から流れるジャーク・チキンの美味しそうな匂いに、あなたの胃袋は耐えられずふらふらと寄って行くことでしょう。」とガイドブックには書いてあるが、残念ながら食事はすべてホテル内で済ませた我々。そこでの食事は、基本的にアメリカ国内と何ら変わらないのだが、バフェには必ずジャマイカ特産コーナーがあって、ジャーク・チキンやジャーク・ポークが置かれていた。味は、胡椒系のピリ辛で、ビールのおつまみにいいかんじ。しかし、バフェなので食べたいものが多すぎて、ジャークチキンだけを大量に食べることはしなかった。帰国した今頃になって、「ジャークチキン、もっと味わっとけばよかったな。」と後悔の念にかられ、グルメショップで買った「ジャークの素」にチキンをつけては焼いて食べている。しかし、未だに「ジャーク」の正確な意味は知らないので、アメリカ人の前で「昨日はジャークチキンを食べたよ。」とは言えないでいる。