青い海のリゾート地、という以外にも、貧困と麻薬、犯罪の絶えない治安の悪さという側面も持つこの国。今回は滞在のほとんどをホテルの中で過ごし、「リアル・ジャマイカ」には触れなかったけど(もちろん、それでいいのです)、それなりに考えさせる出来事にも出会いました。
食事中の我々に向かって、両手を前に構えて「※★○!」と話し掛けるウエイターがいた。何度聞いても分からずに、やっと理解できた。「ジェット・リー!」と叫んでいたのだ。(ジェット・リーはカンフー俳優。甘いマスクでハリウッドでも人気。)どうやら(ひ)が似ていると言っているらしい。名誉なことである。〈多分に、アジア人は皆同じ顔に見えるんだろう。〉「彼はチャイニーズで、我々は日本人だよ。」と説明すると「ウーン…ヒデトシ、ナカタ!」と返って来る。ジャマイカではサッカーが人気なのだ。意外なところでは、昨年のレゲエ・ダンスクイーンが日本人女性だったそうで、「ユーコ」だったか「ヨーコ」だったかを知っているか?と度々聞かれた。知らないよ、と答えると、彼女はすごくいいダンサーで、いろんなミュージシャンのミュージック・ビデオに出演してお金を一杯稼いでいるよ、とのこと。ジャマイカで活躍する日本人女性、かっこいい話だ。で、極めつけはクリスが話したキングストン(首都)で出会った2人組の日本人女性。とてもカワイイこの2人、「トーキョーから来たの。ジャマイカの男と遊びに来たの。」とハッキリと滞在目的を語っていたらしい。ちなみに、お金が目当ての外国人専門ジゴロはキングストンの名物。水心あれば魚心。とはいえ、この話ばかりは反応に困った。ジャマイカにも、「日本の恥」は輸出中。
「ジャマイカを知ろう」というミニ講座があったので、風邪気味の(ひ)を部屋に残し、(ま)は一人で出席した。他の出席者は、アメリカ人(中年以上)が8人ほど。ジャマイカの地理、ジャマイカの歴史(海賊の栄枯、隷貿易中継地としての繁栄、プランテーションでの奴隷の過酷な労働、イギリスからの独立など)、国旗の色の意味(黄色は太陽、緑は豊かな自然、黒は黒人としての誇り)などの説明を受ける。ジャマイカ人のほとんどがそうであるように、講師も当然黒人で、歴史を語るところでは気持ちが盛り上がって「ブラック・パワー!」などと叫ぶ場面も。
さて、一通りの説明が終わり、質問タイムに。早速アメリカ人のおばさんが質問をする。「教育制度はどうなっているの?」「イギリスの影響で、ジャマイカの教育制度はしっかりしている。しかし、ドロップアウト(学校を辞める)子供も多い。大学は授業料が高いので、進学率は低い。」という説明を、おばさんはすまし顔で聞いていた。そして次の質問は「子供は何歳から働いているの?」「公式に賃金を得る労働は18歳から、でも14歳過ぎると農場では働いている。」との回答。「最低賃金はあるの?」「アメリカドルに換算して、週に37ドル(4000円程度)。」ここで周囲に大きなどよめきが起こった。「アメリカの1日分じゃない!!」「信じられないほど低いわ!」
(ま)は思っていた。『信じられないのはあんた達だよ。国によって物価が違うので、収入も違って当然なんだよ。世界中の人々がドルで生活しているとでも思ってるのか?』 しかし、(ま)の「でも、ジャマイカではそれ(収入)で暮らせるんでしょ。」の反論は、無残にもアメリカ人達の怒りの中に消えていった。
面白さ半分、呆れるのが半分。アメリカ人の、子供の教育と労働環境についての意識の高さは確かに素晴らしい。でも、他の国が自分達のレベル以下だと、同情なり怒りを感じて、それをやみくもに批判もしくは矯正しようとする姿勢には疑問を感じる。(最近の外交もまさにこのパターンですね。)アメリカは「個性重視」というけれど、それも”アメリカの価値観”というかなり保守的な枠組みの中での話なのだ、と改めて実感。
それ以前に、バケーションに来てまで、どうして相手国の弱点についての質問なのだろう。((ま)はレッドストライプの歴史について聞いたぞ。)「ジャマイカは貧困で、子供は満足な教育を受ける機会が無く、過酷な労働に借り出されている。」という答えを期待し、それを聞いて「やっぱりね。」と顔をしかめつつ、自分の国のレベルの高さを満足感と共に再認識したがっている、そんなひねた精神構造に触れた気がしたのだ。
この険悪な雰囲気を見かねたマネージャーのシャーリーが発した「でも、自然があって、太陽があって、私たちは幸せに暮らしている。そんなジャマイカが、私たちは大好き。それでいいでしょ?」の一言で、「ジャマイカを知ろう」講座は後味悪くもどうにか終了した。ジャマイカの他にも、学んだことがあったよなー、と、この話をしようと部屋に戻ると、(ひ)は熟睡中だった。
ジャマイカ人のケリーと一緒に朝ご飯を食べていて、クリスマスの話になった。ジャマイカ人(多くはクリスチャン)の慣習として、25日のクリスマスの朝には家族皆で集まり、プレゼントを交換し、そしてマリファナを吸うそうだ。「え?」 そう、マリファナを吸うそうだ。彼女は続ける。アメリカ人にこの話をすると「オー・マイ・ガーッ!」となるそうだが、それは各国の習慣であり、非難される話ではないという。ちなみに、ジャマイカではマリファナは一般的で、麻薬というより一種の薬、もしくは嗜好品として扱われることが多い。余り驚くのも失礼なので、「日本でも、小さい子供は親と同じ部屋に寝るのは普通だけど、アメリカでそれをすると幼児虐待で警察行きだよ。国によって文化は違って当り前だよね。」と説明した。しかし、説明しながら思い返すと、我々はアメリカで暮らしている手前、アメリカの文化を受け入れようと結構頑張っているし、時には日本の文化を隠すことだってある。相手の文化がおかしいと思っても、迎合していることだってあるだろう。それが異国で生活するということだ。でも、こうやって第三者に第三者の文化を(それもかなり衝撃の事実を)平然と語られると、「国が違えば文化も違う。それは当然で恥ずべきことではない。」という基本的なことを思い出していた。ま、マリファナに迎合しようとは思わないけれど。
クリスマスで人もまばらなジャマイカの空港で帰国便のチャックインをしようすると、係員より指示があり、トランクを開けさせられ中身を全て調べられた。「も、もしかしてドラッグ(麻薬)を調べているの?」と聞くと「そうよ。」と涼しい顔で係員。そう、ここジャマイカはドラッグの一大産地。「ダメ、ゼッタイ。」と西村知美に言われて(注:警察庁の麻薬防止キャンペーンのコピーです。)育った(ひ)(ま)はに考えもつかないが、ガイドブックにも「現地でドラッグに手を出すのは別として、国外への持ち出しは違法」などの記述があるくらいなので、それが目当てでやってくる若者も少なくないに違いない。で、調べ方を見ていると、大きな袋類には全く感心を示さず、まさに重箱の隅をつつくようにして小さな隙間を調べていた。確かに、ドラッグは小さいはずだもんね。そして搭乗口へと向かおうと金属探知機を通る。時計や金具のついた靴を履いたまま通ったにも関わらず、全く反応はなかった。どうやら、ジャマイカの係員は金属類には関心が薄いらしい。
そしてやってきた米国アトランタ。乗り継ぎにも関わらず、もう一度金属探知機を通り、ボディチェックを受ける。また、新しい法律により、外国人は入国に際し「指紋」と「顔写真」を取られるのだ!(生まれて初めての指紋採取は、やっぱり緊張。愉快な経験ではありませんね。)飛行機の中では、これまた新法の「トイレ使用の際は必ず乗務員の前を通って行くこと」(と聞こえた。違うかも。)という説明があっていた。
飛行機に乗せたくないのは「麻薬」か「テロリスト」か、探すものによって捜査方法は随分違う。